執筆・監修記事

キレる子どもと食生活

キレる子どもと食生活

マリヤ・クリニック(内科・小児科) 院長 柏崎 良子

 

 中学生による殺傷事件に見られるように、ここ数年、ささいなことで心のブレーキを失う「キレる」という現象が目立ちます。若年層のこのような傾向は、さまざまな環境の変化による影響もあるのでしょうが、栄養上の問題も見逃せないという指摘もされています。今回は、すでに10年以上にわたってそのような子どもたちを治療している、マリヤ・クリニックの柏崎先生に、「キレる」状態と栄養の関係についてうかがいました。

低血糖による、内分泌や自律神経の不調和が 「キレる」という行動を誘発する

■よく子どもたちの「キレる」という状態が話題になります。これは血糖値が関係していると聞いたのですが…。
●そうですね。血糖値が高い状態が糖尿病なのはご存知の通りですが、キレるという状態は「低血糖症」と関係していると考えられます。低血糖症というのは読んで字のごとく血糖値が低い状態であるわけですが、血糖の調節がうまく行われていない状態も含まれます。つまり、血糖値が急激に上昇したり下降する場合も身体にダメージを及ぼすわけで、これも低血糖症と呼びます。

■低血糖だと、なぜキレるのですか?
●脳は、ブドウ糖と酸素をエネルギー源として機能しています。ですから当然、ブドウ糖が脳に届かなければ脳は支障をきたすわけです。また、血糖値が上昇したり下降したりするとき、膵臓がインスリンを出してその血糖値を調節するのですが、それが長期的に続くと膵臓が疲れてしまい、血糖値の調節がうまくできなくなってしまいます。それに伴い、さまざまなホルモンや自律神経系の不調和が生じ、身体的・精神的にいろいろな症状が起こると考えられます。

 

■もう少し詳しくお聞かせください。
●怒りや憎しみ、イライラ、敵意といった感情は、大脳の深いところにある大脳辺縁系という部分で発生します。しかし大脳辺縁系は、大脳の新皮質という部分によって理性的なコントロールを受けていますから、通常はその感情は抑制されるわけです。たとえば「あいつは憎らしいけど何とか仲直りしなければ」と考えたり、カッとしても「自分はどこかおかしいのかしら」と反省する気分になったりというのがその現れですね。
  ところが、キレてしまうというのは、そのような感情が直接、言葉や行動に出てしまうということです。それがなぜ低血糖と関係しているかといいますと、副腎髄質から出る、血糖値を上昇させるホルモン(ノルアドレナリンやアドレナリン)は、じつは大脳辺縁系を刺激するホルモンでもあるのです。低血糖時に血糖を上昇させるために出たホルモンが、結果的に大脳辺縁系を刺激してそのような感情を起こさせるわけです。そのとき、感情をコントロールする大脳がうまく働かないと、キレるという行動に出てしまうのです。

■大脳がうまく働かないというのは?
●低血糖時には、大脳にブドウ糖が供給されにくくなっていることが原因のひとつです。また、ノルアドレナリンは、さまざまな感情や意思、記憶などを統合して意思決定を行う大脳の前頭葉での神経伝達物質でもあるのですが、血糖を上昇させるためにノルアドレナリンが急激に出ると、その前頭葉が麻痺してしまい、理性的な判断が行えなくなってしまうようなのです。
  つまり、血糖値を上昇させるノルアドレナリンが、大脳辺縁系を刺激すると同時に前頭葉を麻痺させるために、感情が直接的に現れてしまった状態が「キレる」ことだと言えます。

 

疲労感や抑うつ状態など、さまざまな状態を引き起こす

 

■低血糖症は、やはり食事が問題で生じるのですか?
●そうです。ご飯のような炭水化物を食べたときには、ゆっくり吸収されますから血糖値も徐々に上がります。ところが、ジュースなどに含まれる糖分は単糖類というもので、舌や胃からも吸収されるために一気に血糖値が上昇してしまいます。先ほども言ったように膵臓から出るインスリンが血糖値の調節を行っているのですが、甘いものばかり食べたり、清涼飲料水をたくさん飲むような食生活によってこのような状態が続くと、その機能が正常に働かなくなってしまうのです。
  また、副腎という器官はストレスに対しても働く器官ですから、低血糖症の状態で同時にかなりのストレス下に置かれた状況にあると、さらにアドレナリンやノルアドレナリンの分泌が促進されます。そのためにますますキレやすくなると考えられます。

■キレる以外にも症状はあるのですか?
●非常に疲れる、あるいはそのために学校に行きたくないという訴えが多いですね。また、甘いものを無性に食べたくなるという人も多く見られます。それから、これからうまくやっていけないのではないかというような悲観的な思いを持つ人もいます。    
  結局、そのようにして不登校になったり家族とも話ができない状態になり、社会との接点を失った期間が長引けば長引くほど、その人の人格形成にも関わってきます。ですから、肉体的な治療と同時に精神的なフォローが必要となることが少なくありません。

治療では、膵臓を保護するための食事が基本となる

■低血糖症では、どのような治療を行うのですか?
●原則は食事療法と運動です。低血糖症は、膵臓が疲れてインスリンの分泌が正常に行われないために発症することが多いので、膵臓を保護し、休ませるような食事が基本になります。栄養療法では、主にプロテインやビタミンB、Cを摂るようにします。低血糖時に分泌されるホルモンは、たんぱく質をブドウ糖に変換して血糖値を上昇させますから、プロテインを効率的に摂ることが大切ですね。また、プロテインには脂肪が抜いてあるので、膵臓にも負担がかかりにくいというメリットがあります。その他に、ビタミンBコンプレックス(複合体)を摂取します。ビタミンBはブドウ糖や脂肪が働くための補酵素なので、この摂取も非常に重要です。

■乳酸菌飲料やヨーグルトは、精神面での健康にとって意味があるのでしょうか?
●乳製品にはカルシウムが豊富に含まれています。カルシウムというと骨や歯を構成する材料というイメージが大きいのですが、それだけでなく、ホルモンの分泌や神経の安定、心臓機能の正常化などにも関わっています。また、ビタミンB6とともにインスリンの分泌にも役だっています。乳製品にはたんぱく質も含まれていますから、先ほど言ったように低血糖時に少したんぱく質を補うとブドウ糖に変換されるためにいいですね。
  それから、同じものを食べても吸収力がいい人もいれば悪い人もいますが、それは腸粘膜や腸内細菌の状態とも関係しています。腸の状態がいいということは、栄養の吸収の助けにもなりますし、雑菌を排除する力にもなりますから、乳酸菌の摂取は大きな意味があると思います。

■どうもありがとうございました。